カウンター 読書日記 傑作★『犬神博士』より。
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傑作★『犬神博士』より。
2008年1月30日 陸軍の裏側を見た吉薗周蔵の手記(14)ー3
 ●現役復帰、拓殖務相などを歴任するも恩賞なしの謎

 の引用中に、以下のように夢野久作・『犬神博士』への言及があった。


 「・・・対清戦争の目的は、第一に条約改正を国力(軍事力)により推進すること、第二は日朝の連携を実現するためであった。既に国家の実質を失った李氏朝鮮国の支配を巡って、日清露の間で覇権争いが激化しつつあり、朝鮮国内では東学党の農民軍が決起を控えていた。東学党の騒乱に乗じて玄洋行が清国を挑発し、開戦の口実にしようと考えていた有様を、杉山の子息夢野久作が傑作・★『犬神博士』のなかで語っている。・・・」と。

 当該部分をここに紹介・引用しておこうと思う。以下引用はちくま文庫版夢野久作全集(5)による。(p338-342)
 *****************
  
  
 ★<百五>途中から。

 「……チョツト用があるので会いに来ました」
(福岡)知事の額から青筋万次第次第に消え失せて行った。それに連れてカンシャクの余波らしくコメカミをヒクヒク咬み絞めていたが、しまいにはそれすらしなくなって、ただ呆然と吾々二人(楢山と数え歳7歳の少年)の異様な姿を見比べるばかりとなった。
 楢山社長は半眼に開いた眼でその顔をジツと見上げた。片手で山羊髭を悠々と撫で上げたり撫で下したりしながら今までよりも一層落ちついた声で言った。

「知事さん」

「今福岡県中で一番偉い人は誰な」

「……………」

 知事は面喰らったらしく返事をしなかった。又も青筋が額にムラムラと現われて、コメカミがヒクヒクし始めたので、何か云うか知らんと思ったが、間もなくコメカミが勣かなくなって、青筋が引込むと同時に、冷たい瀬戸物見たような、白い顔に変って行った。

「誰でもない。アンタじやろうが・・・あんたが福岡県中で一番エライ人じゃろうが」

 ★<百六>

楢山社長の言葉は子供を諭すように柔和であった。同時にその眼は何ともいえない和ごやかな光りを帯びて来たが、これに対する知事の顔は正反対に険悪になった。知事の威厳を示すべくジッと唇を噛みながら、恐ろしい眼の光りでハタハタこっちを射はじめた。

 しかし楢山社長は一向構わずに相変らず山羊髭を撫で上げ撫で上げ言葉を続けた。
「・・・なあ。そうじゃろうが。その福岡県中で一番エライ役人のアンタが、警察を使うて、人民の持っとる炭坑の権利をば無償で取り上げるような事をば何故しなさるとかいな」

「黙れ黙れツ」
と知事は又も烈火の如く怒鳴り出した。
「貴様達の知った事ではない。この筑豊の炭田は国家のために入り用なのじゃ」

「ウム。そうじゃろうそうじゃろう。それは解かっとる。日本は近いうちに支那と露西亜ば相手えして戦争せにゃならん。その時に一番大切なものは鉄砲の次に石炭じゃけんなあ」
「・・・・・」
「・・・しかしなあ・・・知事さん。その日清戦争は誰が初めよるか知っとんなさるな」

「八釜しい。それは帝国の外交方針によって外務省が・・・」

「アハハハハハハハ……」

「何が可笑しい」
 と知事は真青になって睨み付けた。

「アハハハハ。外務省の通訳どもが戦争し得るもんかい。アハハハ・・・」

「・・そ・・・それなら誰が戦争するのか」

「私が戦争を初めさせよるとばい」

「ナニ・・・何と云う」

「現在朝鮮に行て、支那が戦争せにゃおられんごと混ぜくり返やしよる連中は、みんな私の乾分の浪人どもですばい。アハハハハハ・・・」

「・・ソ・・・それが・・どうしたと云うのか・・ッ」
 と知事は少々受太刀の恰好で怒鳴った。しかし楢山社長はイヨイヨ落ち付いて左の肩をユスリ上げただけであった。
「ハハハ・・・どうもせんがなあ。そげな訳じゃけんこの筑豊の炭坑をば吾々の物にしとけあ、戦争の初まった時い、都合のよかろうと思うとるとたい」

「・・・バ・・・馬鹿なッ・・馬鹿なッ・・この炭坑は国家の力で経営するのじゃ。その方が戦争の際に便利ではないかッ」

「フーン。そうかなあ。しかし日本政府の役人が前掛け当て石炭屋する訳にも行かんじゃろ」

「そ・・・それは・・・」
「そうじゃろう・・・ハハハ。見かけるところ、アンタの周囲には三角とか岩垣とかいう金持ちの番頭のような奴が、盛んに出たり這人ったりしよるが、あんたはアゲナ奴に炭坑ば取ってやるために、神聖な警察官吏をば使うて、人民の坑区をば只取りさせよるとナ」

「・・・そ・・・そんな事は・・・」

「ないじゃろう。アゲナ奴は金儲けのためなら国家の事も何も考えん奴じゃけんなあ。サア戦争チウ時にアヤツ共が算盤ば弾いて、石炭ば安う売らんチウタラ、仲い立って世話したアンタは、天子様いドウ云うて申し訳しなさるとナ」

「しかし・・・しかし吾輩は・・・政府の命令を受けて・・・」

「・・ハハハハハ・・・そげな子供のような事ば云うもんじゃなか。その政府は今云う三角とか岩垣とかの番頭のような政府じゃなかな。その政府の役人どもはその番頭に追い使わるる手代同様のものじゃ。薩州の海軍でも長州の陸軍でも皆金モールの服着た金持のお抱え人足じゃなかな」

「・・・・・」

「ホンナ事い国家のためをば思うて、手弁当の生命がけで働きよるたあ、吾々福岡県人バッカリばい」

「・・・・・」

「熟と考えてみなさい。役人でもアンタは日本国民じゃろうが。吾々の愛国心が解からん筈はなかろうが」

「・・・・・」
知事はいつの間にか腕を組んで、うなだれていた。今までの勇気はどこへやら、県知事の威光も何もスツカリ消え失てしまって、如何にも貧乏たらしい田舎爺じみた恰好で、横の金屏風にかけた裾模様の着物と、血だらけの吾輩の姿を見比べたと思うと、一層悄気返ったように頭を下げて行った。

 その態度(ようす)を見ると楢山社長は、山羊髭から手を離して膝の上にキチンと置いた。一層物静かな改まった調子で話を進めた。

「私はなあ・・・この話ばアンタに仕たいばっかりに何度も何度もアンタに会いげ行た。バッテンが貴下はいつも居らん居らんちうて会いなさらんじゃったが、そのお蔭でトウトウ此様な大喧嘩いなってしもうた。両方とも今停車場の所で斬り合いよるげなが、これは要するに要らぬ事じゃ。死んだ奴は犬死にじゃ」

「・・・・・」

「そればっかりじゃなか。この喧嘩のために直方中は寂れてしまいよる。これはんなアンタ方役人たちの心得違いから起った事じゃ」

「・・・・・・」

「あんた方が役人の威光をば笠に着て、無理な事ば為(し)さいせにや、人民も玄洋社も反抗しやせん」

「・・・・・」

「その役人の中でも一番上のアンタが、ウンと云いさえすりあこの喧嘩はすぐに仕舞える。この子供も熱心にそれを希望しとる」

「ナニ。その子供が・・・」
と知事は唇を震わしながら顔を上げた。

・・・以下略・・・。  

 ***************


 ここに登場する知事は勿論、安場保和・当時福岡県令がモデルで、

 鶴見俊輔の母(愛子)の母(和子)の父である。

 算盤勘定最優先の「三角とか岩垣」が三井・三菱等の財閥であることは言うまでもない。

 興味深いのは、ここで示されている、玄洋社の楢山(頭山)と安場の交際の「印象風景

 描写」=「場面描写」の見事さである。

 歴史の状況証拠的風景はなかなか知ることが出来ないので、ありがたいことだ。

 

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