カウンター 読書日記  『新しい階級社会、階級闘争』を読む。
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 『新しい階級社会、階級闘争』を読む。
 5。「格差拡大は見せかけ」という詭弁


 それでは、国会での格差論争について少し詳しくみていこう。
先にみたように小泉元首相は、この問題についてなかなか率直な物言いをした。あいまいにやり過ごすというよりは、正面から自己を正当化しようとしたのである。この姿勢は、基本的には安倍前首相にも受け継がれた。この二人の首相の発言には、格差容認・肯定派の主張のエッセンスが含まれている。ただし二人の発言は、したがって国会の会議録も散漫で、全体の長さに比べると、情報量があまりにも少ない。要点だけ整理してみていこう。
 
 格差の問題について小泉が最初にとったスタンスは「格差は拡大していない」だった。2006年1月の通常国会冒頭では、自民・公明を含む各党の代表が、格差拡大の事実を指摘するとともに、政府の責任を質した。これに対して小泉は、最初の段階では「統計データからは、所得再分配の効果や高齢者世帯の増加、世帯人員の減少といった世帯構造の変化の影響を考慮すると、所得格差の拡大は確認されない」と、その直前に提出された月例経済報告の内容とほぼ一字一句変わらない答弁を繰り返したのである。

 その堅苦しい言い回しには、報告の内容をちゃんと理解して自分の言葉で表現しようとする努力の跡がまったくみられない。多くの読者にはわかりにくいと思われるので、小泉に代わって説明を加えておこう。

 この答弁は三つの論点を含んでいる。それは、「再分配の効果」「高齢者世帯の増加」「世帯人員の減少」である。あらかじめいっておくが、これは政府が、格差拡大の事実を否定しようとあの手この手を持ち出して作り上げた屁理屈とでもいうべきものだから、たいへんわかりにくい。

 まず所得格差について考える場合、★二種類の所得を区別する必要がある。先に述べたように、税の徴収と再分配の前後では格差の大きさが変わるからである。ひとつは税金や社会保険料などが差し引かれる前の所得で、「当初所得」または「再分配前所得」と呼ばれる。サラリーマンの給与明細でいえば、「現金給与総額」「支給合計額」などと書かれているものに相当する。
 
 もうひとつは、税金や社会保険料などを差し引き、社会保障を受け取っている人についてはその支給額を加えた後の所得で、「再分配後所得」と呼ばれる。累進課税の下では高所得者ほど 税率が高い。低所得者は税率が低いだけでなく、社会保障給付を受ける可能性が高い。だから再分配後所得は、高所得者では当初所得よりかなり小さくなるのに対して、低所得者ではあまり大きな変化がなく、年金生活者や生活保護受給費の場合は、むしろ増えることになる。だから再分配後所得の格差は、当初所得の格差より小さい。所得格差といっても、当初所得と再分配後所得のどちらを問題にするのかによって、話は変わってくる。

そして先に引用した答弁で小泉が(あるいは小泉を通して官僚が)いおうとしたのは、「再分配後所得でみれば、格差はあまり拡大していない」ということである。実際には再分配後所得の格差も明らかに拡大しているのだが、たしかに拡大幅はやや小さくなる。しかしこれは、政府が政府として当たり前のことをやっているというだけだから、自慢にはなるまい。しかも日本政府による再分配の効果は、先にも述べたように先進国で最低レベルなのである。

 次に、高齢者世帯の増加と所得格差の関係である。
 
 一般に高齢者は、若年層に比べて格差が大きくなる傾向がある。あくまでも最近までという限定つきだが、これまでの日本では大部分の若者たちが、学校を出るとすぐに正社員として就職した。学歴が同じであれば、新人社員の初任給はほぼ横一線で、男女間の格差も小さかった。学歴が違っても、たとえば大卒の新人社員と5年目の高卒社員では、賃金はほとんど変わらない。
 ところが年齢が上がるにつれて、女性の多くは退職して無職になったり低賃金のパートになったりするし、企業にとどまった人々の内部にも、昇進の有無や程度、学歴、そして性別による大きな賃金格差が生まれていく。退職前後の年齢になると、職業を継続している人と退職して所得ゼロになった人が混在するため、さらに格差は大きくなる。
 このように人口が、格差の小さい若年者と格差の大きい高齢者から構成されているとき、高齢化が進行して後者の人口比が大きくなればどうなるだろうか。当然、社会全体としては格差が大きくなる。ここから出てくるのが、統計から観察される格差拡大は、高齢化による見せかけの現象にすぎないという主張である。これはもともと、経済学者の★大竹文雄が言い出したことだが、小泉はここで、この主張を採用したわけである。

 最後に、世帯人員の減少という問題である。日本では一人暮らしの人が増え、平均すると世帯の規模が小さくなるという傾向が続いている。一人暮らしをするのは、若い人と高齢者が中心だが、いずれにしても所得は少ない場合が多い。このことが、統計上は所得格差の拡大として現れる。しかしこれは、家族のあり方が変わったために起こったことだから、やはり見せかけの格差拡大にすぎない。小泉の答弁は、こういう意味である。
 
 格差は拡大しているが、それは見せかけである。この主張は、いかにも苦しい。苦しいからこそ、わかりにくくなる。そして、人々の実感からはかけ離れてしまう。
 「格差拡大は高齢化による見せかけた」という主張を例にとろう。高齢化によって格差が拡大したということは、何を意味するか。それは、豊かな高齢者と貧しい高齢者がともに増えたということである。つまり、生活困難な高齢者が増加しているということである。
 平均値をとれば、日本の高齢者は豊かだといえないこともない。60歳以上世帯の平均貯蓄額は2195万円で、これら高齢者世帯の貯蓄が貯蓄残高全体の56.8%をも占めている(総務省『平成17年家計調査年報』)。

 ところが所得や資産の統計では、平均値というのがくせ者である。ごく一部の豊かな高齢者世帯の存在によって、上の方に大きく引っ張られてしまうからである。実は、この平均額を超える貯蓄をもつ高齢者世帯は三分の一程度しかいない。平均から1000万円までの世帯、平均の半額以下の1000万円未満しか貯蓄のない世帯が、それぞれほぼ同数ずつである。わずかな年金に頼る生活で、貯金が数百万円以下しかないというのは、いかにも心細いが、このような高齢者が三分の一にもなるのである。
 
 日本の貧困率が15.3%で、先進国では米国に次いで世界第二位だというOECDの調査結果(P80図表3・2参照)が報道されて話題になった。しかし貧困率を年齢別にみると、66歳から75歳では19.5%、76歳以上では23.8%にも上っている。これら高齢の貧困層は、日本の貧困層全体の29.1%を占める。高齢化社会は、膨大な貧困層を生み出す社会でもある。貧困な高齢者が激増しているのである。経済力のない高齢者だからこそ、格差の存在は深刻な意味をもつ。
 日雇い労働者の街だった東京の山谷地区が、最近では「福祉の街」になったといわれている。日雇労働者の多くがいまや高齢者となり、「ドヤ」と呼ばれる簡易宿泊所に滞在したまま、生活保護を受けるようになったからである。
 そのうえ、墨田区、新宿区など他の区が、住む場所のない生活保護受給者を送り込んでくる。そのほとんども、やはり高齢者である。高齢者で、しかも一人暮らしである。中には支給額が少ないため、1泊900円ほどの狭い二段ベッドの並ぶ相部屋に寝泊まりし、そこで死んでいく人もいる。小泉の考えでは、このような高齢者が増えることは「見せかけの格差拡大」なのである。
 大竹文雄の名誉のために付け加えておくが、彼の研究は、もちろんこんな粗雑なものではない。経済指標に現れる格差拡大を、計量的な方法でいくつかの構成要因に分解して示そうという、正統派の地味な研究である。同時に彼は、消費の格差が拡大していること、高齢化の影響を取り除いても格差は拡大していることなども指摘しており、格差拡大の事実を否定しているわけではない(大竹文雄『日本の不平等』)。
 しかし、格差拡大の構成要因の中で高齢化の占める比重が大きいという知見が、「格差拡大は見せかけだ」という政府のキャンペーンに利用されたにもかかわらず、そのような単純な理解を否定もせず積極的にマスコミで発言し続けたという点では、大竹にも責任がないわけではない。
 
 さて、国会の話に戻ろう。与野党の議員たちにさまざまな事実を突きつけられ、格差が拡大しているという事実を否定しきれなくなったとき、次に小泉がとったスタンスは、最初にみたように★「格差は当然だ」というものだった。この段階になると、自分のもともとの持論に近かったからか、小泉は突如として雄弁になり、格差の存在や格差の拡大を積極的に擁護する姿勢に転じたのである。


  6。「再チャレンジ」論の登場 へ続く。


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