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『知られざる真実』を読み込む。
 1・沖縄知事選と徳州会病院臓器売買事件 

 私の勾留期間中、2006年11月19日に沖縄県知事選挙が実施された。9月26日に発足した安倍晋三政権にとって、政権発足後の最初の試金石となる選挙だった。安倍政権は教育基本法を改正して「愛国心」を教育方針に明文化したうえで、国民投票法を制定し、憲法を改正することを訴える。そして、日本の安全保障体制を強化する方針も示した。
 沖縄では普天間基地移設による基地跡地返還問題が行き詰まり、これも知事選の重要な争点だった。
 米国は「トランス・フォーメーション」と呼ばれる米軍の世界配置の再編を進めており、在日米軍の再編も重要な政策案件となってきた。小泉政権を引き継いで米国の意向に従う方針を示している安倍政権にとっては、今後の政権基盤を固めるうえで、沖縄知事選は負けることのできない選挙だった。米国で11月7日に実施された中間選挙では、ブッシュ大統領の率いる共和党が歴史的敗北を喫した。1994年以来続いてきた共和党による上下両院支配が音を立てて崩れた。2001年9月11日に米国で発生した同時多発テロを理由に、ブッシュ大統領は2003年3月に米軍によるイラク攻撃を指令した。すでに4年以上の時間が経過しているが、イラクの泥沼状況は一段と深刻度を増している。
 米国のNBC放送がイラクでいまも続く紛争を、正式に「内戦」と表現して報道し始めたニュースが伝えられた。中間選挙での共和党大敗北という政治状況の変化を背景にした、メディア特有の豹変ぶりを示しているが、米国の国内でもイラク戦争の評価は」激変している。そもそも2001年9月11日の事件は多くの謎に包まれている。この問題に触れることには、相当の覚悟を必要とすると実感している。このことはのちに触れる。しかし、疑問は疑問として提示しなければならない
「情報」あるいは「インテリジェンス」に関わりを持つ者は特別な「情報」を取り扱う場合、細心の注意、時には自らの生命の危険をも意識しなければならない。
 沖縄県知事選挙のI週間前に実施された福島県知事選挙では、民主党、社会党などが推薦する候補者、が自民党と公明党の推薦する候補者に10万票の大差をつけて勝利した。東京拘置所で私の居房の真向かいに前福島県知事の関係者が勾留されていた。連日、朝から夜まで取り調べが続いた。
福島・沖縄で与党が連敗すれば、安倍政権の求心力は一気に低下する。危機感が自民党執行部に広がった。
沖縄知事選の争点は、日米基軸外交、憲法改正、教育基本法改正を政策の柱に据える安倍政権の基本政策と密接に関わっていた。選挙結果、が与える影響は重大だった。
 知事選の直前に与党は衆議院で教育基本法改正案の採決を強行した。野党は審議拒否で対応し、野党欠席のまま与党のみによる採決が衆院本会議で実施され、教育基本法は賛成多数で可決された。ニュースを耳にして「安倍政権は沖縄知事選勝利の確証をつかんだに違いない」と直感した
自民党は独自の調査を実施して、勝利の確証を得たのだろう。果たして、選挙は与党の勝利に終わった、自公推薦の仲井真弘太氏が34万7303票、野党ほか推薦の糸数慶子が30万9985票だった。3万7000票差での仲井真氏勝利だった。投票日当日のマスコミ出口調査では糸数氏リードだった。だが結果は逆になった。
 朝日新聞、が実施した出口調査では、投票した県民の56%が経済問題を最重視し、その中の67%が仲井真候補に、32%が糸数候補に投票した。基地問題を最重視した人は28%で、このうちの84%、が糸数候補に、15%が仲井真候補に投票したとのことだ。投票所に足を運んだ有権者の三分の二が経済問題を重視し、その結果、仲井真候補が勝利したとの分析が可能である。
 だが、別の視点で鍵を握ったと言われたのが、11万票もあった「期日前投票」である。不在者投票は8年前の知事選時には5万8000票だったが今回は11万票に増えた。創価学会が動員をかけたことも伝えられたが、もうひとつ指摘がある。「徳洲会病院」が仲井真陣営の支援に回ったのだ。徳洲会は沖縄県内に16もの医療施設を持つ。鹿児島2区を選挙区とする元自由連合の徳田毅衆議院議員は徳洲会前理事長である徳田虎雄氏の子息だ。その徳田議員が知事選を前に沖縄で1200人の集会を開いたという。徳洲会は組織をフル動員し、また鹿児島から百人単位で職員を沖縄に派遣して選挙戦に従事させたそうだ。
 ここまで読み、ある騒動を思い浮かべた人がいるだろうか。沖縄知事選と並行して進行した騒動があった。10月から11月にかけて新聞を賑わせた愛媛県宇和島徳洲会病院を舞台にした「生体腎移植問題」だ。大きな事件と言うより、不自然に大々的に取り上げられた事件だ。
 徳田毅議員は沖縄知事選直前の11月2日に自由連合を離党した。沖縄知事選後の11月29日に自民党に入党願を提出した。徳田氏の父である徳田虎雄氏がかつて衆議院選挙を戦った鹿児島県奄美群島選挙区は、徳之島や奄美大島を中心に壮絶な金権選挙、が行われ、全国にその名が知れ渡った。「徳之島戦争」と言われた激しい選挙戦の背景には日本医師会と医療法人徳洲会の骨肉の争いがあった。宇和島徳洲会の「生体腎移植問題」をめぐる連日の新聞大報道を読みながら、何か大きな背景があるのだろうかと訝しく感じた。
 沖縄県知事選挙と宇和島徳洲会病院を舞台にした臓器売買事件。二つの話題を結びつける国民は皆無に近いだろう。
  私も友人が雑記記者のブログ記事を送ってくれなかったら見過ごしていた。ブログ情報は、徳田氏の自民党入党を警戒する日本医師会が徳洲会攻撃を展開したこと、自民党幹事長に就任した中川秀直氏、が徳田氏に交渉を持ちかけたことを指摘していた。真偽を確認することはできないが、十分に考えられる話だ。
 沖縄知事選後、徳洲会病院の生体腎移植問題報道は急減した。司法当局が本格的に動き出す気配も後退した。外務省官僚で現在起訴休職中の佐藤優氏が『国家の罠』と題する本を出版した。国会議員の鈴木宗男氏があっせん収賄容疑で逮捕された時、佐藤氏もロシア出張に関する公費取扱いなどの問題を理由に背任および偽計業務妨害容疑で逮捕された。佐藤氏は、私が原稿を書いている東京拘置所に512日という長期間勾留された。その期間に同氏の不屈の精神力と明晰な頭脳、が生み出しだのが2005年3月に出版された『国家の罠』だ。佐藤氏は2006年12月には東京拘置所での読書ノートをもとに『獄中記』(岩波書店)を出版するなど精力的に活動している。
 『国家の罠』によって「国策捜査」という言葉が知られるようになった。国家権力には立法、行政、司法があり、「三権」は「分立」していると学校では教える。だが、これはフィクションだ。日本の国家権力の仕組みには、運用によって独裁的な政治権力を生み出す仕掛けが内在する。この点も後述する。
 仮説を提示することは容易だが、宇和島徳洲会病院問題と沖縄県知事選挙の因果関係の「立証」は困難だ。生体腎移植問題が表面化したのちに徳田毅議員は自由連合を離党し、自民党入党の意向を表明した。徳田氏が自由連合を離党したのは沖縄知事選挙告示日の11月2日だった。自由連合は沖縄知事選挙で野党候補の糸数慶子氏を推薦していた。各種報道で宇和島徳洲会病院の生体腎移植問題が大騒動になった。徳田議員率いる徳洲会は沖縄知事選で仲井真候補を総力を挙げて応援した。仲井真候補が当選した。沖縄県知事選後に宇和高徳洲会問題は急速に鎮静化した。徳田毅議員は11月29日に自民党へ入党届けを提出し、12月20日に入党が認められた。
 
 これだけのことが起こった。世間で宇和島徳洲会問題と沖縄知事選を結びつける人はほとんどいない。いたとしても、無限に広がるインターネット空間の片隅で独り言をつぶやく人が少数存在するだけで人々の耳に届かない。だが、仮に一連の経過が政治権力に支配された司法とメディアの作為によって仕組まれたものだったら笑って済ませるわけにいかない。

 


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